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福岡高等裁判所宮崎支部 平成7年(ネ)68号 判決 1996年4月19日

平成七年(ネ)第五九号事件控訴人

青島漁業協同組合

同年(ネ)第六八号事件被控訴人

(第一審両事件被告。以下「第一審被告」と表示する。)

右代表者代表理事

清山奈良一

右訴訟代理人弁護士

殿所哲

平成七年(ネ)第五九号事件被控訴人

松浦勇一

同年(ネ)第六八号事件控訴人

(第一審両事件原告。以下「第一審原告」と表示する。)

平成七年(ネ)第五九号事件被控訴人

岩切良平

同年(ネ)第六八号事件控訴人

(第一審両事件原告。以下「第一審原告」と表示する。)

右両名訴訟代理人弁護士

鍬田萬喜雄

後藤好成

主文

一  第一審被告の控訴に基づき、原判決中、第一審原告らに関する第一審被告の敗訴部分を取り消す。

二  第一審原告らの請求をいずれも棄却する。

三  第一審原告らの本件各控訴を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審とも、第一審原告らの負担とする。

事実及び理由

一  第一審被告は、主文同旨の判決を求め、第一審原告らは、「原判決中、第一審原告ら関係部分を次のとおり変更する。第一審被告は、第一審原告松浦勇一に対し、四三七七万円及び内金二七六七万二〇〇〇円に対する昭和五七年一月一日から、内金一六〇九万八〇〇〇円に対する昭和五八年一月一日から、各完済まで年五分の割合による金員を支払え。第一審被告は、第一審原告岩切良平に対し、一三九〇万九四〇〇円及び内金九二一万八四〇〇円に対する昭和五七年一月一日から、内金四六九万一〇〇〇円に対する昭和五八年一月一日から、各完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも、第一審被告の負担とする。」との判決並びに仮執行宣言を求めた。

二  本件事案の概要は、当事者双方の主張として、次のとおり付加するほかは、原判決事実及び理由「第二 事案の概要」の記載中第一審原告ら関係部分の記載と同じであるから、これを引用する(但し、原判決六枚目裏六行目の「決議をした」を「決議をし、空港対策委員会は本件空港補償金の配分を配分委員会で行う旨の決議をした」に、同九枚目裏四行目の「本件空港補償金」を「本件新港補償金」に、同一五枚目裏八行目の「操業することができるのに対し」を「操業することができるが」に、それぞれ改め、同一六枚目表二行目及び四行目の「漁業権」の前に「右」を加える。)。

1  第一審原告らの主張

(一)  第一審被告は、本件補償の配分について、①漁獲割、②依存度割、③平均割、④経験割(新港補償金関係)、⑤調整割、⑥出資割(空港補償金関係)という配分基準を設定して配分をし、全体の割合からすると依存度割の比率を低く設定しているが、本件補償金は本件操業禁止区域において操業していた漁業者に対する補償金であるから、本来、本件補償金は依存度割のみによって配分すべきである。

(二)  しかるに、第一審被告は、本来、本件補償金とは関係のない漁獲割、平均割、経験割、出資割等を本件補償金の配分基準に取り入れているので、右配分基準は、そのこと自体合理性がないものであるのに、更に、それら関係のないものの配分率を高くし、依存度割を低く設定しているのであるから、本件各補償金について第一審被告が設定した配分基準はいずれも本件補償の趣旨に著しく反するものであり、第一審原告らの委任の趣旨にも反するものである。

(三)  なお、第一審原告らは、本件新港補償金の配分について承諾書を提出しているが、それは次のような経緯により提出したものである。

即ち、第一審原告らは、本件新港補償金の配分案について、当初から強く反対し、承諾書の提出を求められた際にも、あくまでも提出を拒否していたが、当時の配分委員会の委員長である黒木政明や理事らばかりでなく、一ツ瀬漁業協同組合の役員まで派遣して説得に乗り出し、承諾書を提出しないと配分ができず、他の五漁業協同組合も敵に回すことになるとか、今後の交渉もできなくなるとか、このままでは第一審原告らが村八分にされるかのようなことまでいって、圧力をかけてきたので、やむなく承諾書を提出したに過ぎない。

したがって、第一審原告らは、異議なく承諾書を提出したものではない。

2  第一審被告の主張

(一)  本件各補償金の配分基準は、合理性のあるものであるが、なお、本件空港補償金の配分に当たって、依存度割の比率を新港補償金の配分の依存度割の比率より低くした理由及びその間の経緯について付言すると、それは次のとおりである。

(1) 新港補償金の配分に当たって、配分委員会は、本件操業禁止区域を特に漁場として依存していた度合いが高いと考えられる小型底曳網(深海底曳網を除く。以下、同じ。)、刺網、ばいかごの三漁業種について、配分率を19.9パーセントと厚くすることを定めたが、漁業の実態として、自由漁業者は許可漁業者と重複する区域で漁業を営み、本件操業禁止区域において自由漁業者も操業しており、また、過去五年間における前記小型底曳網、刺網、ばいかごの三漁業種の水揚高に比べて、その他の漁業種の水揚高ははるかに高いという実態があったことから、審議の過程において、依存度割を零とされた一本釣等の自由漁業種を代表する委員から、本件操業禁止区域に入漁していた者が漁業を廃業するのであれば依存度割を設定する意味はあるが、操業禁止区域には入漁しないというだけで、操業禁止区域外では同じ漁法で漁業を継続して行うことができるのであるから、本来、依存度割は設定すべきではなく、小型底曳網、刺網、ばいかごの三漁業種のみに依存度割を認めることは納得できないとの強い反対があり、結局、本件操業禁止区域の設定により被害が認められる自由漁業種に対しては、調整割の配分額から経営体調整額として三九五〇万円を上乗せすることによって、その間の調整を図ることとし、小型底曳網、刺網、ばいかごの三漁業種に限って依存度割として19.9パーセントを配分することが維持されたのである。

(2) そして、本件空港補償金の配分についても、小型底曳網、刺網、ばいかごの三漁業種に限って、依存度割を設定することについては、一本釣等の自由漁業者から、本件の補償金は漁業者の水揚高で貰っているのであるから、小型底曳網、刺網、ばいかご等の許可漁業者のみに依存度割を認めることは納得できない等の強い反対があったが、配分委員会では、空港補償金についても、小型底曳網、刺網、ばいかごの三漁業種に限って依存度割を配分することとし、その配分割を12.56パーセントに止めるとともに、一本釣等の自由漁業者には新港補償金の配分のときのような依存度割にかわる経営体調整額という配分はしないことにして、その間の調整を図ることにし、各漁業種グループ毎での検討をしてもらったのち、決定したものであり、これについては定期総会においても異議なく承認されたのである。

(3) なお、本件空港補償金の配分委員会においては、小型底曳網代表の第一審原告松浦、刺網代表の佐々木正及びばいかご代表の第一審原告岩切が空港補償金の配分委員を辞退したので、右の者らは右委員会に参加していないが、同配分委員会には小型底曳網漁業種グループからは芝清治、池田稔及び根本昭の三名が、刺網漁業種グループからは星倉義寛及び星倉春美の二名が、また、ばいかご漁業種グループからは浜田保一が、それぞれ配分委員として出席し、配分委員会の配分案をそれぞれ各漁業種グループに持ち帰って、討議し、その結果を配分委員会において審議したのであり、前記配分案は右三漁業種に属する者についても十分な配慮をし、審議を尽くして策定されたものであり、本件空港補償金の配分における依存度割の比率を恣意的に低く策定したものではない。

(二)  なお、現に、本件操業禁止区域が設定されたことにより、小型底曳網、刺網、ばいかごについて漁業許可を受けている漁業者は、自由漁業者の一部が漁をしている沖合で操業し、従前のとおりの、或いは、従前以上の水揚を確保しており、一方、一本釣等の自由漁業者は、右許可漁業者が沖合で操業することによって多大の被害を受けているのである。

三  争点に対する判断は、次のとおり、付加、訂正、削除するほかは、原判決事実及び理由「第三 争点に対する判断」の記載と同じであるから、これを引用する。

1  原判決一七枚目裏六行目の「一一の一、二、四、六、」を「一一の一ないし六、三三、三四」に改める。

2  原判決一七枚目裏末行の「伴う損失についての宮崎県との補償交渉」を「関する問題」に改める。

3  原判決一八枚目表三行目の次に、改行して、

「そして、同年七月一九日の臨時総代会において、宮崎空港整備事業については反対をせず、条件闘争とすることが決定された。」を加える。

4  原判決一八枚目表九行目及び一〇行目の「空港対策委員」を「空港対策委員会」に改める。

5  原判決一八枚目表一〇行目「そして、」の前に「その後、同年五月一五日の空港対策委員会において、宮崎空港整備事業に関する問題は、組合員間の調整が困難であるから、空港対策委員会で交渉するよりも、各漁業種グループで交渉したらどうかとの意見が提出されたこともあったが、結局、空港対策委員会において行うことが確認され、同日開催された総代会では、宮崎港整備事業についても、条件闘争とすることが決定された。」を加え、同一〇行目から一一行目の「宮崎港整備事業にかかる損失の」を削除する。

6  原判決一八枚目裏一行目の「被告は、」から同三行目の決議されていたが」までを「なお、前記のとおり、第一審被告は、昭和五一年三月一七日の役員会において空港対策委員二九名を委嘱していたが」に改める。

7  原判決二四枚目表三行目から四行目の「権利の有無を含めて本件補償金の具体的な配分について被告に一任し、」を削除する。

8  原判決二四枚目裏一行目の「組合員全員」から同八行目の末尾までを「また、宮崎県としては、組合員全員を交渉相手とすることは、その中に客観的には補償を受ける権利を有しない者が含まれたとしても、組合員全員を対象とする補償契約を締結すれば、補償を受ける権利を有する者を対象から洩らすことなく全体として補償問題を解決することができるうえ、個々の組合員についての配分額を定めずに本件補償金の総額を一括して第一審被告に支払うことにより、本件補償金の総額についても、妥当性を確保できると考えたことによるものと解される。」に改める。

9  原判決二六枚目表八行目の「前記認定」を「前記第二の一4(三)、同5(二)」に改める。

10  原判決二六枚目裏一〇行目の「五四、」の次に「六三、」を加える。

11  原判決二八枚目表九行目から一〇行目の「(なお、刺網及びばいかご漁業者は辞退した。)」を削除する。

12  原判決三〇枚目裏三行目の「決議が」を「決議を」に改める。

13  原判決三一枚目表七行目の「被告は」から同裏一〇行目の末尾までを次のとおりに改める。

「宮崎県の前記のような考えとは別に、第一審被告及びその所属組合員全員は、本件宮崎県新港整備事業及び空港整備事業について、共通の利害認識を持ち、全組合員が一致して取り組んできたことから、本件補償金についても、組合員全員が第一審被告に対し、交渉によって有利な補償契約を締結し、受領した補償金について漁業の実態等を踏まえて、組合員に合理的かつ相当な配分をすることを委任したものと認めることができるので、これに基づき、第一審原告らを含む全組合員が第一審被告に本件補償金の配分についてした委任の趣旨ないし内容は、前記一連の交渉経過を踏まえ、漁業の実態に則し、かつ、全組合員の利害を調整して配分することであったというべきである。

3 この点について、第一審原告らは、委任の趣旨は第一審原告ら許可漁業者に対してのみ本件補償金を配分することであり、また、その配分方法は損失補償基準に基づく金額を算定して配分することである旨主張しているが、前記認定の事実関係に照らすと、そのような趣旨のものであったとは到底認め難いので、第一審原告らの右主張は採用できない。」

14  原判決三二枚目表四行目の「相当性」を「相当」に改める。

15  原判決三二枚目表九行目の「五〇」の次に「、六二」を加える。

16  原判決三五枚目表七行目の「依存度割」から同裏五行目までを「経営体調整額は、配分委員会において、操業禁止区域を特に漁場として依存していた度合いが高いと考えられる小型底曳網、刺網、ばいかごの三漁業種について、配分率を19.9パーセントと厚くする案が審議されたが、その際、一本釣等の自由漁業者から、漁業の実態として、本件操業禁止区域において自由漁業者も操業しているのに、許可漁業者の右三漁業種にのみ依存度割を認め、自由漁業者に対する依存度を零とするのは不合理であり、また、本来、漁業を廃業しないのであるから、依存度割は認めるべきではないのに、右三漁業種のみについて依存度割を認めることは納得できないとの強い反対がなされたが、結局、当初の案のとおりとして納得を得る代わりに、本件操業禁止区域の設定により被害が認められる自由漁業種に対しては、調整額の配分額の中から経営体調整額として三九五〇万円を上乗せすることにより、その間の調整が図られることになったものである。」に改める。

17  原判決三六枚目裏八行目の「五〇」の次に「、六五」を加える。

18  原判決三九枚目表一〇行目の次に、改行して、

「エ なお、本件空港補償金の配分についても、小型底曳網、刺網、ばいかごの三漁業種に限って依存度割を設定することについては、一本釣等の自由漁業者から、本件の補償金は漁業者の水揚高で貰っているのであるから、右三漁業種の許可漁業者にのみ依存度を認めることは納得できない等の強い反対があったが、右三漁業種に対する空港補償金の依存度割を12.56パーセントに止めることにし、他方、自由漁業者に新港補償金の配分のときのような依存度割にかわる経営体調整額という配分はしないことにし、その間の調整が図られた。」を加える。

19  原判決四一枚目裏一行目の「及び本件新港補償金の配分割合」を削除し、同三行目の「本件操業禁止区域」から同九行目の末尾までを「前記のとおり議論があり、意見調整がなされた結果、合意に至ったものであった。」に改める。

20  原判決四三枚目表五行目の次に、改行して、

「3 ところで、第一審原告らは、本件補償金の配分は依存度割によるべきであり、その他のことは考慮すべきものではない旨を主張している。

しかしながら、本件補償金の配分について、第一審原告らを含む第一審被告組合員の全員が第一審被告に対して委任した趣旨が、前記のとおり、一連の交渉経過を踏まえ、漁業の実態に則し、かつ、全組合員の利害を調整して配分するというものであったと認められるから、依存度割のみによることなく、他の要素をも考慮して配分することは、委任の趣旨に副いこそすれ、何ら委任の趣旨に反するものではないので、第一審原告らの右主張は採用できない。」を加える。

21  原判決四三枚目表六行目の「3」を「4」に改め、同行の「以上」を「前記1及び2」に改める。

22  原判決四四枚目表一行目の「宮崎空港整備事業に対する」から次行の「獲得された部分があり」までを「宮崎空港整備事業による本件操業区域の設定は第一審被告及びその所属組合員全員が利害関係者であるとの共通の意識の基に、反対運動を初めとして一連の交渉経過を重ね、補償金の交渉も組合員全員が一体となって組合を窓口とし、組合が組合員全員の意思を汲んで交渉に当たり、具体的な補償金額についての合意を見るに至ったのであり」に改める。

23  原判決四五枚目表八行目から九行目の「とりわけ原告らがこの配分につき承諾書を提出していたという事情」を「配分に当たって考慮すべき他の配分事項との関係等」に改める。

24  原判決四六枚目表九行目の「原告らの意見」を「各漁業種毎のグループの意見」に改め、同行の「原告らは、」から同末行の「承諾書を提出している」までを「第一審被告の総会において異議なく承認されている」に改める。

25  原判決四六枚目裏五行目の冒頭から四七枚目表一一行目の「以上の点」までを「前記認定の本件補償金の配分についての委任の趣旨」に改める。

26  原判決四七枚目裏六行目の冒頭から八行目の「可能な部分がある。」までを「本件補償金について合意が成立した経緯は前記認定のとおりである。」に改める。

27  原判決四八枚目表末行末尾の「本」から同裏三行目の「また、」までを削除する。

28  原判決四八枚目裏末行から四九枚目表一行目の「22.0パーセントとされ」を「22.0パーセントであり」に改める。

29  原判決四九枚目裏一〇行目の次に、改行して、

「なお、右承諾書の提出について、第一審原告らは、本件新港補償金の配分案について、当初から強く反対し、承諾書の提出を求められた際にも、あくまでも提出を拒否していたが、当時の配分委員会の委員長である黒木政明や理事らばかりでなく、一ツ瀬漁業協同組合の役員まで派遣して説得に乗り出し、承諾書を提出しないと配分ができず、他の五漁業協同組合も敵に回すことになるとか、今後の交渉もできなくなるとか、このままでは第一審原告らが村八分にされるかのようなことまでいって、圧力をかけてきたので、やむなく承諾書を提出したものであり、異議なく承諾書を提出したものではない旨主張している。

しかし、第一審原告岩切は本件新港補償金の配分委員であるのに、配分委員会において反対した形跡はなく、むしろ、第九回配分委員会において決定された本件新港補償金の配分案に同意しており、第一審原告松浦と同じ小型底曳網グループに属する配分委員の根本昭も同意している(乙一一の九)ので、右主張は到底採用できる筋合いのものでない。」を加える。

30  原判決五〇枚目表一行目の「原告らも」から同三行目の「行動をしなかったのであるから、」までを削除する。

31  原判決五〇枚目表八行目の「に基づく合理的な裁量の範囲」を削除する。

32  原判決五二枚目表九行目の冒頭から六二枚目裏八行目の末尾までを次のとおりに改める。

「また、調整割の配分割合は、本件新港補償金の配分案では13.0パーセントであったものが、本件空港補償金の配分案では11.45パーセントとされている。

そこで、右配分割合の変更が委任の趣旨ないし内容に反するものであるか否かについて検討する。

前記のとおり、本件空港補償金の配分についても、昭和五七年九月二〇日の臨時総会において、配分案を空港対策委員会が選任した配分委員による委員会において策定するとの決議がなされたのであるが、右決議のときには既に本件新港補償金についての配分は終了しており、また、本件空港補償金についての補償契約も成立して、その補償金三億五〇〇〇万円の支払も受けていたのであるから、本件空港補償金の配分についても、本件新港補償金の配分基準と同じ基準が合理的であり、相当であるならば、右臨時総会において、改めて、配分案を空港対策委員会が選任した配分委員による委員会において策定することの決議をする必要は全くなかった筈である。しかるに、右臨時総会において、再度、配分案を空港対策委員会が選任した配分委員による委員会において策定するとの決議がなされたということは、本件新港補償金の配分基準はあるが、本件新港補償金については、更に新たな検討を加えて配分案を策定することを委任したものと解される。

そこで、右委任を受けた空港対策委員会では、昭和五七年一〇月六日の委員会において、空港補償金の配分委員の選出について公平を期するために慎重に協議して配分委員を選任し(乙一一の一二)、配分委員会は合計一〇回の委員会を精力的に開き、各漁業種毎のグループから出された配分案に基づき検討、協議したが、そこでの議論の中心は依存度割の点にあり、その他の点については概ね一致して、特に問題になることもなかった(乙六四、六五)。そして、依存度割の点については、前記のとおり、自由漁業者と三漁業種の許可漁業者との問題があったが、結局、昭和五七年一二月一二日の配分委員会において配分案が纏まり、同月二三日の第一〇回配分委員会において、前記のとおりの配分基準による配分案の決定がなされた(乙一一の一四、六六)。

ところで、右配分委員会は、配分委員であった小型底曳網代表の第一審原告松浦、刺網代表の佐々木正及びばいかご代表の第一審原告岩切が本件新港補償金の配分について訴えを提起するとして、第一回配分委員会の開催前に配分委員を辞退したため、同人らの関与なしに検討協議がなされたが、同配分委員会には小型底曳網漁業種グループからは芝清治、池田稔及び根本昭の三名、刺網漁業種グループからは星倉義寛及び星倉春美の二名、ばいかご漁業種グループからは浜田保一が配分委員として参加し(乙六三)、協議された配分案をそれぞれ各漁業種グループに持ち帰って討議し、その結果を配分委員会において再度検討協議しているのであるから、右三漁業種に属する者に対しても十分な配慮をしたうえ、配分案を策定したものであり、恣意的に策定された配分基準・配分比率であるとか、右三漁業種の漁業者に対する依存度割の比率を意識的に低くしたということはできない。

しかるところ、右配分案に基づく配分については、前記のとおり、第一審被告の通常総会において報告され、第一審原告ら本件訴えを提起した六名を除いた出席者全員(出席者数は一六四名)が承認している(乙一一の一五)のであるから、本件空港補償金の配分割合は本件新港補償金の配分割合と異なるものではあるが、本件空港整備事業等に対する一連の交渉経過を踏まえて、漁業の実態に則し、かつ、全組合員の利害を調整して配分したもので、合理性があり、相当であって、委任の趣旨ないし内容に反するものということはできない。」

四  以上の次第であるから、第一審原告らの本訴請求はいずれも理由がないものとして棄却すべきところ、一部これと異にした原判決は相当でないから、第一審被告の本件控訴に基づき、原判決中第一審原告らに関する第一審被告の敗訴部分を取り消して、第一審原告らの本訴請求をいずれも棄却し、第一審原告らの本件各控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について、民訴法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 根本久 裁判官 海保寛 裁判官 横田信之)

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